肝硬変の栄養管理——BCAA補充とLES(就寝前軽食)の根拠
肝硬変の患者さんに栄養指導をするとき、「BCAAサプリメントを飲んでください」「寝る前に軽く食べてください」と伝えても、なぜそれが必要なのか理解してもらえないことがあります。肝硬変では糖や脂質だけでなく、アミノ酸の代謝バランスが大きく崩れており、それが全身の栄養状態に直結しています。
肝硬変でアミノ酸バランスが崩れる理由
肝硬変になると、肝臓の代謝機能が低下します。健康な肝臓では、アンモニアを尿素に変える尿素回路が働き、芳香族アミノ酸(AAA)であるフェニルアラニン・チロシンなども肝臓で分解されています。ところが肝硬変では、肝臓でのAAAの分解が低下し、AAAが血中に増えます。
一方で、分岐鎖アミノ酸(BCAA)であるバリン・ロイシン・イソロイシンは主に筋肉で代謝されるため、肝機能が低下しても骨格筋が利用し続けます。その結果、血中のBCAA濃度は相対的に低下し、BCAAと芳香族アミノ酸の比率であるFischer比が低下します。なお、ガイドラインで指標として使われているのは、BCAAとチロシンの比(BTR)です。
Fischer比の低下は単なる数値の変化ではありません。AAAが過剰になると、これらが脳内に移行しやすくなり、神経伝達物質のバランスが崩れて肝性脳症を引き起こす一因となります。また、BCAAの不足は筋肉のたんぱく質合成を妨げ、サルコペニアや低栄養の進行につながります。
BCAA補充の根拠と効果
BCAA製剤の投与は、Fischer比を改善し、肝性脳症の予防・改善に寄与します。日本消化器病学会・日本肝臓学会の「肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版)」では、BCAA顆粒の適応は、食事摂取量が十分なのに低アルブミン血症(血清アルブミン3.5g/dL以下)を示す非代償性肝硬変とされています。
BCAAには筋肉でのたんぱく質合成を促進する作用もあります。特にロイシンは、mTOR(哺乳類ラパマイシン標的たんぱく質)経路を活性化し、翻訳開始因子を介してたんぱく質合成を促します。肝硬変患者では骨格筋量が減少しやすく、エネルギー消費が亢進している状態ですから、BCAAの補充は筋肉量の維持にも役立ちます。
ただし、BCAA製剤だけに頼るのではなく、食事全体でたんぱく質を確保することも重要です。肝硬変では、たんぱく質を極端に制限する必要はなく、蛋白不耐症がなければ1.0〜1.5g/kg/日(BCAA製剤を含む)が基本とされています。肝性脳症の時にたんぱく質を制限すると、かえって筋肉のたんぱく質の分解が進むため、推奨されていません。
LES(就寝前軽食)が夜間の異化を防ぐ仕組み
肝硬変の患者さんは、夜間の空腹時間が長くなると、エネルギー不足に陥りやすい特徴があります。健康な人では、肝臓にグリコーゲンが十分に貯蔵されており、空腹時には分解されて血糖を維持します。しかし肝硬変では、肝臓のグリコーゲン貯蔵能力が低下しているため、夕食後わずか数時間で糖新生に依存するようになります。
糖新生の材料は、筋肉から分解されたアミノ酸です。つまり、夜間の長い絶食時間は筋肉の分解を促進し、サルコペニアや低栄養を加速させます。これを防ぐために提案されているのが**LES(Late Evening Snack:就寝前軽食)**です。
LESは就寝前に200kcal程度の軽食を摂取する方法で、日本消化器病学会・日本肝臓学会のガイドラインでも、分割食や就寝前のエネルギー投与が推奨されています。おにぎり1個、バナナとヨーグルト、BCAA含有飲料などが例として挙げられます。夜間にエネルギーを補給することで、糖新生による筋肉の分解を抑え、朝までの栄養状態を安定させることができます。
研究では、LESを継続することで血清アルブミン値が改善し、体重や筋肉量の減少が抑えられたという報告があります。ただし、効果を示した研究の多くはBCAAを含むLESによるもので、BCAAを含まないLESの効果はまだ明らかでありません。また、75g経口糖負荷試験の2時間後の血糖値が200mg/dL以上の症例では、LESで耐糖能異常が悪化するという報告があります。腹水や浮腫が強い場合には水分・塩分の管理も必要なため、LESの内容は個別に調整します。
代償期と非代償期で栄養管理は変わる
肝硬変の栄養管理は、病期によって方針が異なります。
代償期では、肝機能がある程度保たれており、腹水や肝性脳症などの合併症がありません。この段階では、たんぱく質を過度に制限する必要はなく、むしろ十分なエネルギーとたんぱく質を確保して筋肉量を維持することが優先されます。エネルギーは25〜35kcal/kg(標準体重)/日(耐糖能異常があれば25kcal/kg/日)、たんぱく質は蛋白不耐症がなければ1.0〜1.5g/kg/日(BCAA製剤を含む)が基本です。LESを取り入れることで、夜間の異化を防ぎ、全体的な栄養状態を改善できます。
非代償期では、腹水・浮腫・肝性脳症などの合併症が出現し、栄養管理がより複雑になります。肝性脳症時のたんぱく質制限は推奨されていません。蛋白不耐症がある場合に限り、低たんぱく食(0.5〜0.7g/kg/日)にBCAA高含有の肝不全用経腸栄養剤を組み合わせます。
腹水がある場合には、食欲を損なわない程度の緩やかな食塩制限(5〜7g/日)と水分管理が必要です。ただし、極端な制限は食事摂取量の低下を招くため、患者さんの食欲や生活の質を考慮しながら調整します。また、非代償期では亜鉛欠乏が起こりやすく、味覚障害や免疫機能の低下につながるため、亜鉛の補充も検討します。
aiyolabで聞いてみた
肝硬変の栄養管理について、もっと詳しく知りたい場合はaiyolabのAIチャットが役立ちます。「肝硬変でBCAAが必要な理由は?」「LESの具体的なメニュー例を教えて」といった質問をすると、日本消化器病学会・日本肝臓学会のガイドラインや食事摂取基準2025を根拠にした回答が返ってきます。出典が明記されているので、栄養指導の資料作成やレポートの下調べにも使えます。
肝硬変の栄養管理では、Fischer比の改善とBCAA補充、夜間の異化を防ぐLESが重要です。代償期では筋肉量の維持を優先し、非代償期では合併症に応じた個別対応が求められます。患者さん一人ひとりの病期と生活背景に合わせた栄養指導が、QOLの維持と予後改善につながります。