心不全の栄養管理、塩分・水分制限のエビデンス
心不全の栄養管理、塩分・水分制限のエビデンス
心不全患者の栄養指導で、塩分と水分を厳しく制限すればするほど良いと考えていませんか。実際には、心不全患者に適した塩分摂取量のエビデンスは確立しておらず、個別に判断することが重要とされています。過度な制限はかえって食欲低下や低栄養を招きます。この記事では、日本循環器学会/日本心不全学会の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(2025年3月発行)に沿って、塩分・水分の考え方とサルコペニア予防のポイントを整理します。
心不全とは何か
心不全は心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなった状態です。息切れ、むくみ、疲労感といった症状が現れ、日常生活に支障をきたします。心不全の管理では薬物療法とともに、水分・塩分の制限が重要とされてきました。
ただし、心不全患者は低栄養のリスクも高く、進行すると心臓悪液質と呼ばれる状態に陥ります。体重減少と筋肉量の減少が同時に進むため、栄養管理では「制限」と「維持」のバランスが求められます。
NYHA分類と食事指導の関係
NYHA分類は、心不全患者の症状と身体活動の制限を4段階で評価する国際的な基準です。
- NYHA I度: 身体活動に制限がなく、日常的な身体活動で症状が出ない
- NYHA II度: 安静時は無症状だが、日常的な身体活動で疲労・動悸・呼吸困難などが出る(身体活動の軽度の制限)
- NYHA III度: 安静時は無症状だが、日常的な身体活動より軽い労作で症状が出る(高度の制限)
- NYHA IV度: 安静時にも症状がある
NYHA分類は重症度の目安ですが、現行のガイドラインは、この分類ごとに塩分・水分の制限量を決める形にはなっていません。
塩分:数値目標はなく、個別化が基本
2025年改訂版の心不全診療ガイドラインでは、塩分の過剰摂取は心不全増悪の誘因となりうるものの、心不全患者における適切な塩分摂取量のエビデンスは確立していないとされています。数値の目標は示されておらず、「過剰な塩分摂取を避け、個別性をふまえた塩分管理を考慮する」ことが推奨されています(推奨クラスIIa、エビデンスレベルC-EO)。食事摂取量などを考慮して、個別化した塩分管理を行います。
日本人(20歳以上)の平均食塩摂取量は9.6g/日(令和6年国民健康・栄養調査)です。まずは調味料の使い方や加工食品の選び方を見直すところから始めます。
水分:代償期は1日1〜1.5Lを目標にすることが弱く推奨
水分について、2025年改訂版は、代償期の心不全における1日水分摂取量1〜1.5Lを目標とした水分制限を弱く推奨しています(エビデンスレベルA[弱])。一方で、トルバプタンを内服している患者では、過度の水分制限により脱水や高ナトリウム血症のリスクがあるため注意が必要です。制限の要否や量は、医師の指示に基づいて個別に設定します。
過度な塩分制限のリスク
塩分を極端に減らすと、食事がおいしくなくなり、食欲が低下します。その結果、エネルギーやたんぱく質の摂取量も減り、低栄養に陥るリスクが高まります。
心不全患者では、低栄養がサルコペニア(筋肉量に加えて、筋力や身体機能が低下した状態)を引き起こし、さらに心機能の悪化につながる悪循環が生じます。適切な塩分摂取量のエビデンスは確立していないため、「減らせば減らすほど良い」という単純な考え方はできません。
栄養指導では、塩分制限の必要性を説明しつつ、だしや香辛料を活用した調理法を提案するなど、食事の満足度を保つ工夫が欠かせません。
水分制限の考え方
水分制限は、医師の指示に基づいて個別に行います。利尿薬を使用している患者では、薬の効果を見ながら水分摂取量を調整します。
制限する際は、飲料だけでなく、食事に含まれる水分も考慮に入れます。汁物や果物、ゼリーなども水分としてカウントするため、患者には具体的な食品例を示して説明することが大切です。
一方で、水分を制限しすぎると脱水のリスクが高まり、腎機能の悪化や便秘を招くことがあります。特に高齢者では、のどの渇きを感じにくいため、意識的に水分を摂るよう声かけが必要です。
サルコペニア予防とたんぱく質摂取
心不全患者は、安静にしている時間が長くなりがちで、筋肉量が減少しやすい状態にあります。サルコペニアを予防するには、適切なたんぱく質摂取が不可欠です。
ガイドラインでは、中等度以上の腎機能障害がない場合、たんぱく質は少なくとも1.1g/kg/日、高齢者では1.2〜1.5g/kg/日が推奨されています。ただし、腎機能が低下している場合は、たんぱく質制限が必要になることもあるため、医師と相談しながら設定します。
肉・魚・卵・大豆製品をバランスよく取り入れ、毎食にたんぱく質源を含めるよう指導します。食欲が落ちている場合は、少量でも効率よくたんぱく質を摂れる食品(チーズ、ヨーグルト、栄養補助食品など)を活用するのも一つの方法です。
エネルギー摂取と体重管理
心不全患者の体重管理は、単に「減らす」ことが目的ではありません。むしろ、急激な体重減少は心臓悪液質のサインである可能性があり、注意が必要です。
目標エネルギー量は、体重あたり25〜30kcal/日の簡易式やHarris-Benedictの式などで設定し、個々の活動量や栄養状態に応じて調整します。肥満がある場合も、極端なカロリー制限は避けます。
体重の変動は、体液貯留の指標にもなります。3日間で2kg以上増加した場合は、むくみの悪化が疑われるため、医療機関への連絡を促します。
食事指導の実際
心不全患者への食事指導では、以下のポイントを押さえます。
- 塩分の多い食品(漬物、加工肉、インスタント食品など)を控える
- 調味料は計量スプーンで測る習慣をつける
- だし、レモン、ハーブなどで風味を補う
- 外食時は、汁物を残す、ソースを別添えにするなどの工夫を伝える
- 水分制限がある場合は、制限量と食事に含まれる水分を具体的に伝える
また、患者の生活背景や嗜好を考慮し、実行可能な目標を一緒に設定することが大切です。一度にすべてを変えようとせず、優先順位をつけて段階的に取り組むよう促します。
aiyolabで聞いてみた
心不全の栄養管理について、もっと詳しく知りたいときはaiyolabのAIチャットが役立ちます。「心不全の塩分管理は、ガイドラインではどう書かれている?」「心不全でサルコペニアを予防するたんぱく質摂取量は?」といった質問を投げかけると、食事摂取基準や公式ガイドラインを根拠にした回答が返ってきます。出典つきで確認できるので、レポート作成や栄養指導の下調べに使えます。
まとめ
心不全の栄養管理では、塩分は数値目標ではなく個別化した管理、水分は代償期に1〜1.5Lを目標にする制限が弱く推奨されている、というのが2025年改訂版の考え方です。過度な制限は食欲低下や低栄養を招くため、患者の状態を見ながら柔軟に調整します。同時に、サルコペニア予防のためのたんぱく質摂取やエネルギー確保も忘れてはいけません。「制限」だけでなく「維持」の視点を持ち、患者が実行可能な食事指導を心がけることが、心不全管理の質を高めます。